第2 検討事項
1 起案構成の一例
犯人と被告人の同一性について検討すべき場合の構成例を示す。
これは,「被告人○○を本件の犯人と認定することができるかについての判断過程を起案せよ。」と言った程度のざっくりした設問の場合の構成例である。
設問の形としては,もっと限定した形で聞いてくる場合もある。そのときは,それに応じた構成にすること。ただし,要求される思考過程としては,共通している。
code:構成例
第1 本件の証拠構造について
第2 間接事実の検討
1 間接事実ⅰ
(1)犯人・事件との結びつきの認定
(2)被告人との結びつきの認定
(3)間接事実ⅰのまとめ
(4)推認力
2 間接事実ⅱ
(1)犯人・事件との結びつきの認定
(2)被告人との結びつきの認定
(3)間接事実ⅱのまとめ
(4)推認力
3 間接事実ⅲ
(1)犯人・事件との結びつきの認定
(2)被告人との結びつきの認定
(3)間接事実ⅲのまとめ
(4)推認力
第3 供述証拠の信用性判断
第4 間接事実の総合
第5 被告人の弁解の検討
第6 結論
この起案構成は,『刑裁導入起案のための事実認定ガイド』に忠実に作成した。
この起案構成が,そのまま犯人と被告人の同一性の思考過程となる。
2 構成例に即した説明
code:要素
第1 本件の証拠構造について
はじめに,簡単に証拠構造を説明する。
すなわち,直接証拠がないこと,直接証拠と勘違いしそうな証拠があるなら,それが直接証拠にあたらないことを,さらりと説明すれば足りる。
code:要素
第2 間接事実の検討
間接事実を一つずつ検討する。
間接事実の作り方については,後述。
code:要素
1 間接事実ⅰ
まず,タイトル。
検察終局処分起案と違い,完成形の間接事実をタイトルにする必要はない。「凶器の近接所持」「事件直後,現場付近にいたこと」「服装の類似」程度の抽象的なタイトルで足りる。
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(1)犯人・事件との結びつきの認定
(2)被告人との結びつきの認定
犯人と被告人の同一性を認定するには,犯人から被告人までが,間接事実を介してつながることが必要だから,間接事実の必須の構成要素として,犯人・事件との結びつきの要素と,被告人との結びつきの要素の両方が必要である。
項目を分けて論じると,混乱しないし,忘れないし,読んでいてわかりやすいので,私自身は,この構成を激しく推奨します。
それぞれの項目では,間接事実の各部分(犯人側・被告人側)を,証拠から認定する。
証拠からダイレクトに認定できる事実と,推認過程を経て認定できる事実を区別して論じることが肝要。
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(3)間接事実ⅰのまとめ
ここで間接事実の完成形を書く。ある程度具体的であることを要するが,検察起案の犯人性間接事実ほど具体的でなくてもよいように感じる。 犯人から被告人まで,きちんと線がつながっているかどうかを確認すること。
ここで,犯人と被告人の結びつきを改めて論じる方がきれいな場合もある。たとえば,特徴の一致の場合。以下のような構成になる。
code:構成例
(1)で,犯人の特徴を書く。
(2)で,被告人の(犯行当日の)特徴を書く。
(3)で,(1)記載の特徴と(2)記載の特徴がどのように合致あるいは酷似するかを書いた上,間接事実のまとめとする。
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(4)推認力
基本は,「強い」「相当程度強い」「弱い」の3段階。
全くの私見の感覚としては,「強い」=70%以上,「相当程度強い」=50%~70%,「弱い」=20%~50%,くらいかな。(かなり適当。)
ここで要求されている思考プロセスについては,後述。
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2 間接事実ⅱ
間接事実ⅰと同じプロセスを繰り返す。
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3 間接事実ⅲ
同じプロセスを繰り返す。
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第3 供述証拠の信用性判断
理屈で言えば,間接事実を認定するための前提として必要なので,第2の中でそれぞれ行うべきかもしれない。
しかし,起案としては,信用性は後に出してまとめて検討,のほうが,ずっと書きやすい。
この構成は認められているし,推奨する教官もいる。また,『刑裁導入起案のための事実認定ガイド』の構成も,こうなっている。
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第4 間接事実の総合
第2で認定した間接事実を総合する。
ここまでの検討によれば犯人と被告人の同一性が認定できる,という結論を書く。(もちろん,有罪の場合。)
無罪にするのも悪くないですが,ほとんどの記録には,有罪認定できるだけの証拠がある。
ここで要求されている思考プロセス及び決まり切った言い回しは,後述。
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第5 被告人の弁解の検討
ここではじめて被告人の弁解を検討する。これ以前は,完全無視。(争点把握のためだけに使う。)
被告人の弁解は,消極方向にしか働かない。95%の心証が89%に落ちるかどうか,を検討するだけ。被告人の弁解が信用できないことによって,89%の心証が90%に上がることは,あり得ない。
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第6 結論
被告人の弁解によっても,被告人が犯人であるという認定が揺るがないことを述べて,再度結論(「犯人と被告人の同一性は認定できる。」)を繰り返す。